2019年10月11日公開
『空の青さを知る人よ』
導入インプレッション
これはいつもの超平和バスターズの作品とは違います。
過去の作品『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』、『心が叫びたがっているんだ。』はともに青春群像劇というフレーズがよく似合うアニメです。
『空の青さを知る人よ』は、予告編を見てもわかる通り、主要登場人物に大人がいます。だから、青春群像劇というよりも、今回は普通の群像劇に近い印象を受けます。
そして、今作はメインキャストに役者の方を迎えました。
だからでしょうか。リアルなキャラクターの描写・演技が、見ている人たちを物語の世界へ没入させてくれ、邦画を見ているかのような体験を感じさせてくれます。
そうかと思うと、13年前の”彼”が目の前に現れたり、松平健さんが演じる新渡戸団吉のように荒唐無稽なキャラクターも出てきて、アニメだからこその表現も満載です。
この作品は、アニメならではのファンタジーとコメディを持った”邦画アニメーション”と言ってもいいのかもしれません。
感想にあたっての補足
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以降『あの花』と表記)はTVアニメ・劇場版を視聴し、『心が叫びたがっているんだ。』(以降『ここさけ』と表記)も劇場に見に行きました。
私個人としては、『ここさけ』のほうが好きです。『あの花』よりもファンタジー感は薄いですが、地に足のついた物語の設定、リアルな少年少女の葛藤がとてもよく描かれていました。
※ここから先はネタバレも含んだ感想になります
【来場者特典のクリアファイル】
本インプレッション
「井の中の蛙大海を知らず。されど空の青さを知る」
この映画を象徴する言葉で、劇中でも使われています。
「井の中の蛙大海を知らず」の言葉に誰もが、狭い世界ではなく広い世界を見ないといけない、そういう強迫観念を抱いているのではないでしょうか。
主人公の相生あおいも同じです。
自分がいたせいで、姉・あかねは彼氏の慎之介とともに東京に行くことができなかった。秩父という狭い世界に囚われ、東京へ出て広い世界を見ることができず、あかねは可哀想だ、あおいは13年間その呪縛に囚われ続けてきました。
でも、本当にそうでしょうか?
「されど空の青さを知る」
狭い世界にとどまり続けたからこそ、深いところまで知ることができる。
もともとは、そういう意味の言葉らしいです。
でも、私がこの映画を見て感じたのはもう少し違う意味です。
空の青さはどこへ行っても素晴らしいもの、広い世界に飛び出さなくても素晴らしいものなのだ。だから、無理をして外に出る必要はない。井の中で蛙でもいいんだ。
そんなメッセージも込められている気がしました。
あおいではなく、あかねの物語でもある。
「井の中の蛙大海を知らず。されど空の青さを知る」はあかねの好きな言葉として劇中で取り上げられています。
「あかねは慎之介と一緒に東京に行きたかったのだ。自分がここにあかねを縛りつける呪いをかけてしまったのだ」
あおいはずっとそう思い込んでいました。
でも、あかねにとって、あおいは、まさに”空の青さ”でした。
親を亡くして、親代わりにあおいを育ててきたあかね。ノートにあおいとの日々を記録し、あおいを想いやってともに生きたのです。
その日々は、決して後悔するようなものではありません。だって、大切な存在と絆を深めるかけがえのない日々だったのだから。
秩父という場所にも愛をもっていた
劇中では、写真をそのまま使用したかのような秩父の風景をたびたび目にしました。
秩父を舞台にしたご当地アニメという側面も強いからあえてそうしているのだろうなと鑑賞しているときは思っていましたが、見終わって見方が変わりました。
きっと、あかねは秩父という場所も愛していたのだと思います。だから、監督は、見ている人にもよりリアルな魅力を感じてもらうために、秩父の風景をあえて写真※を使って表現したのだと思います。
※実際に写真かどうかの裏付けはありません。ただ、そのくらいリアルに秩父の情景が描かれていました。
これは夢をかなえる話ではない
ここまでの感想を読んでわかると思いますが、バンドのことにほとんど触れていません。
なぜなら、この映画はあおいがバンドで成功するという話でありません。
この映画でバンド演奏するシーンは、実は練習する場面のほんの短い時間しか描写されていません。本番の演奏はなんとスタッフクレジット中の静止画で数枚しかないのです。
この事実からもわかる通り、これはバンドものの映画ではないのです。
主題歌を担当するあいみょんさんのイメージが、ベースを持つあおいの姿と非常にマッチしているので、どうしてもバンドのイメージが先行してしまいますが、けいおんやラブライブのように演奏シーンが山場にあって、演奏を終えてやったー!という達成感を味わいたいと思ってみると肩透かしをくらいます。
バンド要素は、キャラクター関係を紡ぎ出す”きっかけ”、そして物語を進めるための”ツール”でしかありません。
本質はメインキャラクターのあおい・あかね・しんの・慎之介の4人のそれぞれの想いを描いた物語なのです。
見る人の年齢感によって見え方が変わる
感想で書いてきた通り、あかねにも大きく比重が置かれた話でもあります。
私はあかねと年齢が近いので、どちらかというとあかねのほうに心理描写のほうに考えを持っていかれましたが、もし、学生の時に見ていたらあおいにもっと感情を動かされたと思います。
姉の彼氏を好きになってしまった自分、その自分の気持ちを貫いてしまったら姉の幸せを奪ってしまうかもしれない——恋をする年ごろであれば、友達と同じ人を好きなってしまったといった感情と重ねることができるでしょう。
また、あおいのお話は、しんのが絡むのでファンタジーな演出が多く入ります。
この感想を書く際に、自分が「あの花」よりも「ここさけ」が好きと書いた理由はここにあります。
『天気の子』のように空を舞う少年・少女のシーンが山場に持ってきてあり、良くも悪くも非常にアニメ的です。
年齢的なものもあると思いますが、最近の私は邦画のようなリアルな地に足がついた心情描写のほうが好きなってきたので、あおいの物語にはそこまで心を動かされなかったのです。
ただ、あおいのキャラクターデザインは非常に良いです!
少し太目な眉毛は最近の人気をしっかりとらえており、仏像をモチーフにしたパーカーは個性的で、あおいのちょっとズレた感性を垣間見ることができます。
それ以外の服装も、ショートパンツやレギンスなど高校生の女の子が実際に身につけそうなリアリティがあり、デザインに関しては地に足がついているのに非常に魅力的に仕上がっていました。
キャラクターデザインを担当した田中将賀さんのセンスに脱帽です。
さいごに
冒頭で、”これはいつもの超平和バスターズの作品とは違います。”と書きました。
これはネガティブな意見ではなく、いままでの超平和バスターズの映画よりも深みが生まれ、作品性に広がりが感じられたから出た言葉です。
そのうえで、個人的には「ここさけ」のほうが面白いと感じました。
バンド演奏で盛り上がるシーンを少なからず期待して見に行ったというものありますし、ファンタジー的な演出が少しミスマッチに感じるところもあったからです。
ただ、『空の青さを知る人よ』は少年少女と大人の群像劇なので、注目するところによって楽しみ方が変わる映画だと思います。だから、もう一度見る機会があったら違う感想が出てくるかもしれません。
次の超平和バスターズ作品も、新しい広がりが生まれることを期待して、楽しみに待ちたいと思います。
※ちなみに役者さんが声優をやっていることに不安を感じる人もいるかもしれませんが、それは心配してなくて大丈夫です!安心して見に行ってください!